VAUNDY/「しわあわせ」
── 不完全さを肯定する、痛くて優しいラブソング
今やジャンルレスな才能として知られるVAUNDY。彼の楽曲は、ポップス、ロック、ヒップホップ、R&Bなどの垣根を軽やかに越え、10代から大人まで幅広いリスナーを惹きつけています。学生である僕と年が近いのにここまでの活躍、差がすごいですね(笑)
そんなVAUNDYの中でも、特に“エモーショナル”な一面が際立つのが「しわあわせ」。
リリースは2021年ですが、今なおライブやSNSで支持され続けている名曲です。
タイトルに込められた“願い”と“リアル”
「しわあわせ」というタイトル、一瞬「幸せ(しあわせ)」のことかな?と思わせる響きがありますが、漢字で書くと“皺合わせ”。
意味を調べると、「布と布のしわを合わせる」や「不一致を調整する」といったニュアンスがあり、ここにこの曲の本質があります。
完璧ではないふたりが、それでも一緒にいるために心を寄せ合う。
ぶつかって、ほどけて、でも離れられなくて。
そんな、不器用で現実的な“愛”がとてもうまく描かれています。
歌詞の“リアル”が記憶をえぐる──“しわあわせ”が刻む、心のしわ
VAUNDY の「しわあわせ」は、比喩的な言葉を紡ぎながらも、その奥にある日常のリアルな痛みと決意をストレートに描いています。
たとえば冒頭で描かれるこの部分:
「僕の時価総額400円の心臓と 絵に描いたような君の綺麗な心臓を 合わせてできたしわの数が 僕達の未来の価値だ」
ここでは「僕」が自らの心を“時価総額400円”と謙遜する一方で、相手の心臓を“絵に描いたような綺麗さ”と称えています。そのかけ合わせから生まれた “しわ”(=時間のしわ・経験の積み重なり)が、むしろ二人の未来を価値あるものにするというポジティブな逆転のメタファーです。
この比喩から浮かび上がってくるのは、不完全な自分でも、共に時間を重ねることでかけがえのない存在になれるというよりリアルな思いが読み取れます。
さらにサビではこう歌われます:
「変わらない 変われないよ僕ら 今もしっかり握っている ちぎれない ちぎらないよ僕ら 今もしっかり繋いでる手」
ここには、年を重ねても変わらない想い、そして繋ぐ手が離れることのない強さが表れています。「変われない」ことを受け入れながらも、その中で“今”を全力で生きるというリアルな覚悟が、この繰り返しのリフレインに込められており、聴いている人を魅了する歌詞の一つとなっています。
そして、曲終盤のこのフレーズ:
「溢れ出す願い込めて僕らは 今から君の見てる方へと やるせない夢が覚めた頃に また、しわをあわせて」
ここには、“やるせない夢”──理想と現実のギャップから目覚めた後でも、再び相手の未来に手を伸ばし、“しわをあわせて”いこうという切実な希望が込められています。そのラストに向かう余韻が、聴いた人の胸をじんわりと熱くすること間違いないでしょう。
🔍 なぜ「リアル」が胸に残るのか
- 比喩が日常と重なる:心臓の価値や「しわ」の数など、一見ファンタジックな表現も、実は誰もが感じる「時間の重み」「繋がり」を象徴している。
- 葛藤と覚悟が混在:「変われない」と言いながらも、それを受け入れた上で「しわをあわせる」という選択をする二人。その揺れ動きが痛いほどリアル。
- 余韻を残す構成:繰り返されるリフレインと、ラストの切ない決意。この構成が、聴く人の感情の余白を刺激します。
このように、VAUNDYの言葉は飾り気のないファンタジー。でも、その中にあるのは、等身大の不安と覚悟。だからこそ、「あ、自分もそうだった」と思える余白がフィットし、記憶の奥底に“しわ”として刻み込まれていく――そんな強さを感じさせるのが、この曲の“リアル感”の本質です。
最後に:あの日、あなたの心に寄り添ってくれた曲はなんですか?
もし、最近聴いていなかったのなら、今もう一度「しわあわせ」を再生してみてください。
聴くタイミングや心の状態によって、見える景色が変わるのも、この曲の深さです。
完璧じゃない。
でも、それでも一緒にいたい。
そんな感情が、今日のあなたにも響くなら――この曲は、きっとあなたの“しわ”にそっと寄り添ってくれることでしょう。